宇佐のどん百姓 堀田敦弘さん

有機JAS認定も取ったけど、本当に安全・安心と言っていいのか。食べてくれる人にそう言い切れるのか

自信がない。いつも悩んでいます。

 

 

 堀田さんは1回目のおおいたオーガニックマーケットに宇佐からわざわざ足を運んで下さった方です。

「おもしろそうだったから。」

ご近所にベテランの強力な助っ人の方もいて下さるそうですが、宇佐平野の中の一軒家で、5町のタンボヲほぼ一人で管理されています。

独特のユーモアのある方で「農作業だけに没頭すると頭がアホになりがちなので、外の刺激がないとダメになる。お米だから多分、売れないと思う。それでもいいし。遊びにいくね。」

と、快くマーケットに参加して頂くことになりました。

 

 

 あちこちに田んぼは点在しています。

 

 

二階建ての大きな建物です。

部屋数も多いです。

 

 

 

 凝った造りの建具があちらこちらに・・・。

有機農業でお米を作るのは大変な労力が掛かります。農薬も除草剤も使わないとなると、本当に手作業が多くなります。

「草対策が本当に大変。除草をうまくしないと収量が半分になってしまう。」

そのため、堀田さんは合鴨農法を試したり、水の管理を厳重に行ったりと試行錯誤を繰り返して来たそうです。

「合鴨はずっと飼っているわけにもいかんしね。」

「美味しかったですか?」と聞くと、本当に食べるまでが大変だったそうで

150羽いたから。1羽、2羽なら美味しく食べられる趣味の世界よ。でも150羽いたら本当に重労働。

労働意外の何者でもなかったわ。」

またお米の味を追求したいと考える堀田さんにとって、もしかしたら生臭みが残るかも知れない・・・と

別の方法を探ることになったそうです。

 

 

 

 

     おくどさんも。

そして今行き着いたのがタニシを使った除草です。

宇佐地方に昔からいるタニシを活用して、稲以外の草を食べてもらう方法です。稲もある程度まで成長すると

タニシの犠牲にはならないそうです。

水遊びと水生生物が結構好きだった私はジャンボタニシなどの旺盛な繁殖力を知っているので

「増えすぎないですか?」と聞いたところ、そこは水の管理で数を調整するそうです。

「タニシで除草する方法を取っている人もいるけど、増えたらツバキ油の絞りかすを田んぼに撒いてそれでタニシを殺すの。でも生物が死ぬようなものを使うのは結局人間にも影響がある気がする。自然由来だからと言って

無害というわけではないしね。」

最初に農場を訪ねさせてもらった古長さんが言っていたのはこういうことだったんだ、と堀田さんのお話を聞いて

繋がりました。「自然由来のものが全て無害ではない」

他の方も言われていた「もちろん、認定されないけど、たとえ酢でも害虫の駆除として使えば農薬扱いになりかねない」

「農薬」のカテゴリーや使い方というのは、ものすごく複雑で難しいと改めて思いました。

 

堀田さんは「趣味」ではなく広大な田んぼで安全で美味しい米作りを追求されています。

味も大事だとコンクールにも積極的に出品されて、宇佐のコンクールでは並いる強豪を抑えて60人中5位入賞を果たしたそうです。

「何が審査基準かは分からないけど、自分だけの判断ではなく、客観的に判断してもらうのも必要だと思って。

でも評価されたのはとても嬉しかったな」

 

 

 

       EM液です。

   

 

 EM液のお風呂です。

温度を一定に保つ工夫がされています。

味を追求するには肥料の研究も欠かせないそうで、堆肥は研究に研究を重ねているそうです。

自宅の一室にはEM菌を温めて米糠と混ぜるための風呂桶があり、蓋をして保温のためのビニールや毛布も重ねて温度管理をされていました。EM菌は1本2000円前後。馬鹿にならないコストです。

 広い田んぼの中のひと区画にある堆肥と農機具を入れるテントにも案内して頂きましたが、ズラリと並ぶ

堆肥熟成のための桶。テントの中には米糠とEM菌を撹拌する機械もあって、桶の中に入れて1年は熟成させる

そうです。それまた巨大なトラクターのような機材で田んぼに撒くそうです。

 やはりどうしても植物性の堆肥を使いたい、と思いはあって

「牛糞とか鶏糞とかで発酵させるやり方もあるけど、その元になる牛や鶏の育てられ方、その餌に含まれるものがどうしても気になる。病気予防のための抗生物質などの薬が多かったり、もともとの餌の質も不安な点があって。発酵させると無害化するという説もあるけど、なんか感覚的に使いたくない。」

 

 

 

 堆肥熟成のための桶です。

 

 

 

 桶の中です。

 米糠とEM液を混ぜて熟成中です。

 

 

 これが堆肥をたんぼに撒く機械です。

 巨大・・・。

ほぼ一人で5町の田んぼでお米を作るというのは、手作業だけでは絶対に追いつかない世界です。

堀田さんの持っている設備や農作業の機械は唖然とするほど大きく、しかも数が多かったです。

 でもさらに驚いたのが脱穀機です。

ご自宅の横の精米と貯蔵庫は「個人で持っているんですか」と聞きたくなるくらいのものでした。

どこかの工場ではないかと錯覚するくらいでした。

「有機JAS認定をお米で取ろうと思ったら脱穀や精米する過程で他のお米が入らないための専用の機械が

必要なの。」

・・・そうですか。それにしても定年退職後に始めた「趣味」ではないんだと改めて強く感じました。そのほかにも

まるで展示場のような大規模なフォークリフトのような機械や大型トラクターが沢山あるので、思わず

「設備投資がものすごいですが、採算撮れるんですか?」と相当ぶしつけな質問をしてしまったところ、

「ははは~。どうかなあ。お金的にはどうかあやしいかもしれないけど、農機具を使っても有機は結局手作業と

手間が膨大にかかるし。でも毎日草取り、草刈り、外に出て農作業して、体に負担の無い食べ物を食べているから病気になったりはせんよね。とにかく健康でいられることが長い目で見たら採算が合うんじゃないのかなあ。」

と言われました。

 

 

自宅の隣のビニールの建物に巨大設備が。

 

 

脱穀機・・・巨大です。

 

 

 

貯蔵庫です。お米の管理に温度は大切。

大規模農業となるとそもそも農薬や化学肥料やお米作りには欠かせないといわれる除草剤を使うのが

当たり前の世界です。それが前提です。

 

 でも堀田さんは「最初からそもそも農薬や化学肥料を使う発想はなかった。それが前提。なんでだろうね。」

とちょっと考えて、それはやっぱり幼い頃に親しんだ農村の景色にあるのかも、と言われました。

田んぼの中に水生生物の小さなエビやおたまじゃくしやどじょうがいて、近くの小川にはメダカがいて

レンゲが咲いて水もきれいで、夏は川で泳いでいた。よく遊んでいた。そういう風景が頭の中にすっと残って

いるからかも。自分の育った環境の風景をよく覚えているそうです。

堀田さんのお米の注文は全国から来るそうですが、北九州のがれき焼却問題依頼、原発事故から逃れて

沖縄に移住された方からは注文が無くなったそうです。「それも仕方ないと思う」

設備投資もして、某大な農作業の栽培記録も書類にまとめて提出して有機JAS認定を取った堀田さん。

そして既存の農薬化学肥料を使う農作業の何倍も手間をかける有機農業を日々やっているにも関わらず

「自分の作っているものが安全で安心なのか、言いきっていいのか本当に自信ない。いつも考える。」そうです。

周囲の田んぼは水で繋がっています。自分の田んぼは農薬を使ってなくても影響がないとは言い切れない。

そして大気汚染の問題もあるし、自然環境全体が安全にならない限り「完璧な安全」と言われる食べ物は

どこを探してもない、と言わざるをえません。

 

 でも私が堀田さんの立場だったらそんな風に謙虚に考えられるだろうか。と思いました。

大変な投資をして労力も使ってJAS認定といういわば「安全のお墨付き」を取ったらやっぱりそれを一番の

売りにすると思うのです。そしてこんなに頑張っている!と盛大にアピールしそうな気がする。いや絶対してしまうと思います。

「自信はない」と言えるその背景の努力や思いを考えると、どうしたらそんな風に考えられるのか目の前のこの人はすごい、と胸が熱くなりました。

 

 今は二人の息子さんも独立されて、奥さまは自分の仕事もあって北九州に居られて家族は別々に住まれて

行き来しているそうです。

息子さんが生まれた時、「ものすごく嬉しかった。かわいくてたまらなかった。」そうです。

 

 

 

 畑です。個人で使う食材はここからまかなっています。

オーガニックマーケットを通して今まで出会って来た有機農業の生産者の皆さんは、誤解を恐れずに

個人的な感を言うと、「女性は女性らしく、男性は男性らしい」と感じています。

女性には母性を、男性には父性を強烈に感じるのです。特に男性の見方はがらりと変わりました。

 ずっとサラリーマンをやってきた私は、年齢問わず、今まで本当に尊敬出来る同僚や上司、後輩にも恵まれて

来ました。大事な人達です。会社の中から社会につながる世界の皆さんです。

 でも有機農業をされている方は、自分の作ったものが誰かの口に入る、自然環境がそのまま生活に密着している、何か間接的でない直接的な世界の中で生きている感じがしました。「将来の子どものための環境や食」に

ついて語る時、「自分の」こどもをきっかけに有機農業を志しても、世の中全体のこどもに向けて心を傾けている感じがどの方と話していても感じます。

「家族、こどもを食べさせていくんだ」しかも、その食べ物を自分で作る。

単純な様でいて、たくましく大きな愛情を感じます。そして世の中全体を変えていくようなダイナミックな働きが出来る、または新しい世の中を生み出していくのが父性と言われるものなのかな、と思うようになりました。

 

 「安全なのか本当は自信ない」と言われる堀田さん。

私はその言葉に謙虚さと同時にものすごく「優しさ」を感じました。

 

 

 

 

 

 堀田さんこんな感じの方です。

私もちゃんと畑を作るように指導されました。

すいません、サボテンもうまく育てられないのですが・・・。

試行錯誤の過程も全て、ホームページで公開されています。そしてご本人は気が付いていないと思われますが、鋭い着眼点や観察眼の中に、何か明るいユーモアのある雰囲気。

「タニシのブログ」は私のツボを付く魅力があります。更新を密かに楽しみにしています。

 

 そういう方の作るお米を味わってみませんか。お話も味わってみて下さい。

きっと楽しいと思います。(いや相当・・・)